福岡高等裁判所 平成10年(ラ)40号 決定 1998年3月17日
抗告人
株式会社福岡シティ銀行
右代表者代表取締役
四島司
右代理人弁護士
合山純篤
相手方
森永産業株式会社代表取締役
森永修
同
森永産業株式会社
右代表者代表取締役
森永修
右抗告人から福岡地方裁判所大牟田支部平成九年(ヒ)第三号会社整理申立事件につき同裁判所が平成一〇年二月一六日にした不動産競売手続中止決定に対し抗告の申立があったので、当裁判所は、次のとおり決定する。
主文
一 本件抗告を棄却する。
二 抗告費用は抗告人の負担とする。
理由
一 抗告人は、「原決定を取り消す。相手方らの不動産競売手続中止の申立を却下する。抗告費用は相手方らの負担とする。」との裁判を求め、その理由として、
「(一) 整理開始命令前の保全処分として競売手続を中止することは、法が認めるものではない。
(二) 仮に、解釈論として、競売手続中止の保全処分が認められるとしても、原決定は、次の点で違法である。
① 原決定の競売中止期限である平成一〇年四月三〇日までの間に、当事者間で競売回避の話し合いがつく可能性はない。
② 商法三八四条が「競売申立人に不当の損害を及ぼすおそれがない」ときにのみ整理開始命令後の不動産競売手続中止を認めていることからしても、整理開始命令前の保全処分としての不動産競売手続の中止は、基本的には、抵当権者の同意あるいは、近々同意が得られる強い可能性がなければ発令できないところ、本件においては右同意あるいは右可能性がない。
③ 本件競売不動産の評価額に照らすと、本件においては、抗告人が、競売手続中止の期間に相当する遅延損害金債権の弁済を受ける見込みは全くない。
(三) よって、原決定の取消しを求める。」
と主張する。
二 当裁判所の判断
1 抗告理由(一)について
会社更生手続においては、手続開始前の競売手続の中止命令が認められているが(会社更生法三七条)、会社整理手続においては、整理開始前の保全処分として競売手続を中止することについて、商法上明文の規定がない。
しかしながら、会社整理手続の場合にも、手続開始前の段階で会社財産の散逸を防ぎ、債権者の追及から会社再建のための財産を確保するため、個別執行手続をとりあえず中止しておくことは必要であって、特に会社更生手続と異なる取扱いをすべき合理的な理由はないと考えられるから、整理開始前の保全処分として競売手続を中止することも許されると解する。
2 抗告理由(二)について
(一) 記録によれば、原決定に係る不動産競売事件がそのまま進行すると、本件競売不動産が整理計画において、大きな位置を占めていると考えられることに照らしても、整理会社である森永産業株式会社の整理の見込みに重大な障害が生じる可能性があり、逆にその中止によって整理の見込みの度合いが高まると考えられる上、整理の見込みがつき、整理案に従って弁済がなされる方が、整理ができないで破産や私的整理になった場合に比べて、弁済率その他の点で全体として債権者(特に一般債権者)にとって有利になる可能性があることが認められる。
(二) 本件競売手続中止の期間も平成一〇年四月三〇日までという比較的短期間であり、その間の競売手続中止によって、右競売申立人である抗告人に、遅延損害金では補填できないような特別の損害が発生するとは記録上窺えず、仮に右遅延損害金が回収不能に終わったとしても、前記(一)の事情に照らすと、不当の損害(商法三八四条参照)とまではいいがたい。
三 よって、抗告人の抗告理由はいずれも採用できないから、本件抗告を棄却することとし、抗告費用を抗告人に負担させて、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官稲田輝明 裁判官田中哲郎 裁判官野尻純夫)